第4回
オーガンテックの挑戦2:「生体」と「人工材料」のハイブリッド
更新日:2026年3月13日
辻 孝,Ph.D.取締役会長・創業者
九州大学・院・理学研究科博士。東京理科大学、教授、理化学研究所BDR、チームリーダー等を歴任。東京歯科大学客員教授。理研客員主管研究員。2008年にOrganTechを創業。2024年に当社、会長に就任。 プロフィール詳細 >
九州大学・院・理学研究科博士。東京理科大学、教授、理化学研究所BDR、チームリーダー等を歴任。東京歯科大学客員教授。理研客員主管研究員。2008年にOrganTechを創業。2024年に当社、会長に就任。 プロフィール詳細 >
器官再生の未来を切り拓いた「機能的な歯の再生」(第3回記事)でしたが、治療として実現するには「大きな壁」がありました。ひとつには、「歯が生える期間」です。ふつう永久歯は、歯胚の状態から歯が完全に生えるまでに5年の年月がかかります。例えば歯科クリニックで再生歯胚を移植する再生治療を受けて、「5年後に歯が生えてきますからね」と言われて、それが治療として果たして実現できるのか、という課題です。この5年を半年、1年にすることができればと考えましたが、「ゾウの時間 ネズミの時間-本川達雄 著」という話のように、生物学的時間(クロック)を変えることは未だできていません。
もう一つの大きな課題は、歯の器官原基である歯胚を再生できる幹細胞は胎児の時期にしか存在しないということです。器官(臓器)のタネともいうべき器官原基は、胎児期に特有の器官誘導能を有する幹細胞の上皮・間葉相互作用によって2種類の幹細胞の反応によって誘導されます。生まれるまでに器官原基から器官が誘導されると、器官誘導能のある幹細胞は組織を修復する「体性幹細胞」へと変化し、器官を維持するようになります(図1)。この結果、傷害や疾患によって器官がダメージを受けて機能不全に陥ると「器官(臓器)移植」しか方法はありません。そのため、歯を再生する歯胚形成細胞は、生まれて永久歯が生えるころには、もうどこからも採取することはできないのです。
図1 器官発生と幹細胞
私たちは、「機能的な歯の再生の原理検証」を達成し、医学生物学的には非常に大きな意義がありました。しかし歯の再生の実用化には大きなふたつの壁が立ちはだかりました。幸いなことに、私たちの歯の再生の研究は、世界中の発生・再生や歯科、医科の学会で受け入れられて多くの学会に招待され、講演をする機会が続きました。その機会に世界中の歯科の研究者から言われたのは、「歯をまるごと再生する研究は素晴らしい。でもいまのデンタルインプラントに歯根膜が再生すれば、それはすなわち機能的な歯の再生だよ」。それは、歯の再生の実用化に向けて未来が開けた瞬間でした。
現代のデンタルインプラント治療は、健全な歯に侵襲を与えることなく、咬合機能のみならず、審美性を回復させます。さらに長期的に安定して咬合機能を代替することから、歯の喪失に対する歯科治療を根本的に変革する治療にまで発展しました(第2回記事)。しかし骨結合型インプラントは、歯槽骨と直接、結合するため、天然歯のように歯根と歯槽骨を連結する「歯根膜」が存在しません(図2、第1回、第2回記事)。歯根膜は、食べ物を噛んだ時の「咬合力の緩衝機能」や、「知覚」、「感染防御」、「歯の移動能」などの多彩な生理機能を担っています。さらに歯根膜組織がないことによって、「若年の患者には適用不可能」であり、高齢化社会において、「寝たきり」の高齢者の場合に抜歯ができないため、全身性の感染症の懸念があることが大きな社会的な課題と考えられています。そのため、デンタルインプラント治療をさらに天然の歯と同様の機能を有する治療に向けた研究開発が期待されていました。
図2 技術的背景:現在の歯科インプラント治療法と未来
デンタルインプラントに歯根膜が付与できて、天然の歯と同じ機能を回復できるとすれば、虫歯にならない金属でできた強化型の歯として、乳歯、永久歯に続く「第三の歯」になることが期待できます。「生体と金属の融合」、まさにサイボーグの世界(図3)。私たちの新たな挑戦が始まりました。
図3 バイオハイブリッドトゥースからサイボーグへ
*本記事は、2026年3月13日時点の情報に基づく研究・開発段階の内容であり、確定的な医療行為を示すものではありません。
