第2回
歯を失った時の治療
―デンタルインプラント治療のいまと課題―
―デンタルインプラント治療のいまと課題―
更新日:2026年2月13日
辻 孝,Ph.D.取締役会⾧・創業者
九州大学・院・理学研究科博士。東京理科大学、教授、理化学研究所BDR、チームリーダー等を歴任。東京歯科大学客員教授。理研客員主管研究員。2008年にOrganTechを創業。2024年に当社、会⾧に就任。 プロフィール詳細 >
九州大学・院・理学研究科博士。東京理科大学、教授、理化学研究所BDR、チームリーダー等を歴任。東京歯科大学客員教授。理研客員主管研究員。2008年にOrganTechを創業。2024年に当社、会⾧に就任。 プロフィール詳細 >
歯を失うと「噛む」、「食べる」ことに大きな影響があります。そのため、これまでの歯科治療では、「咬合機能」の回復を目的として「入れ歯」や「ブリッジ」、「デンタルインプラント」など、人工材料による機能代替治療が進められています(図1)。
図1 歯の喪失に対する人工的な歯科治療法
これらの治療の歴史は古く、戦国時代には尼僧の木製の入れ歯があり、紀元前5世紀には針金で固定されたブリッジが存在しています(図2)。さらに紀元7世紀ころのマヤ文明では真珠貝を利用したインプラントがあり、驚いたことに現代のインプラントのように骨結合をしていました(図2)。これらの治療法の歴史は、ヒトにとって食べるために「咬合機能」を回復させることがいかに重要であるかをよく示しています。一方で、これらの人工材料による歯の代替治療は咬合機能を回復させるものの、入れ歯は安定性に課題があるほか、ブリッジでは隣にある歯を削るなど課題があると言われています。
図2 歯の喪失に対する歯科治療の歴史
1960年代になるとチタン製のインプラントが歯槽骨と直接的に結合する骨結合(オッセオインテグレーション)型デンタルインプラントの治療法が開発されました。骨結合型デンタルインプラント治療は、現在までに数多くの改良がくわえられ、進化をしてきました。現代のデンタルインプラント治療は、健全な歯に侵襲を与えることなく、咬合機能の代替・回復のみならず審美性を回復させます。さらに長期的に安定して咬合機能の代替に寄与することから、歯の喪失に対する歯科治療を根本的に変革する治療にまで発展しました。
これらの人工材料を利用した治療は、咬合機能や審美性の回復には有効であるものの、天然の歯の有する生理的な機能の回復ができないことが課題であると考えられています。歯の喪失に対する最も優れた治療法と考えられているデンタルインプラント治療では、デンタルインプラントが歯槽骨と直接、結合するため、天然歯のように歯根と歯槽骨を連結する靭帯である「歯根膜」が存在しません(図3)。歯根膜は歯の機能発現にとって多彩な生理機能を有しています(第1回記事)。歯根膜は、食べ物を噛んだ時の「咬合力」を緩衝する機能や、知覚神経が侵入して噛んだ「感覚」や「痛み」を感じること、免疫担当細胞が侵入して「感染の防御」、「歯の移動能」などの役割を担っています。そのため、デンタルインプラント治療では、これらの歯根膜による生理機能を欠如することになります。
図3 天然歯とインプラントにおける歯根膜
さらに歯根膜組織がないことによって、顎の骨が成長過程にある若年の患者には適応不可能であり、加齢成長に伴う経年的な歯の移動に伴う「咬合不全」への対応が困難であることが示されています。さらに現代のような高齢化社会において、「寝たきり」の高齢者の場合に口腔衛生のため抜歯をしたいところ、デンタルインプラントは歯根膜がなく、骨結合であるため抜歯ができないため、全身性の感染症の懸念があることが大きな社会的な課題に位置付けられています。
現代の歯の喪失の治療は、健康社会の中心にある「歯で噛んで食べる」という咬合機能の回復に向けて、入れ歯からブリッジ、デンタルインプラントまで多様な治療法が行われており、国民健康において重要な役割を担っています。科学技術の発展により、咬合機能の回復のみならず、生物学的な治療法によって、歯根膜による歯の生理機能と「機能的咬合系(第1回記事)の回復」を可能とする歯科治療の技術開発が期待されています。
※本記事は、2026年2月13日時点の情報に基づく研究・開発段階の内容であり、確定的な医療行為を示すものではありません。
※※本ページ内のイラストは、歴史資料をもとに作成したイメージです
