第1回
健康社会の中心は「自分の歯で食べる」こと
―その鍵は「歯根膜」にある―
―その鍵は「歯根膜」にある―
更新日:2026年1月30日
辻 孝,Ph.D.取締役会⾧・創業者
九州大学・院・理学研究科博士。東京理科大学、教授、理化学研究所BDR、チームリーダー等を歴任。東京歯科大学客員教授。理研客員主管研究員。2008年にOrganTechを創業。2024年に当社、会⾧に就任。 プロフィール詳細 >
九州大学・院・理学研究科博士。東京理科大学、教授、理化学研究所BDR、チームリーダー等を歴任。東京歯科大学客員教授。理研客員主管研究員。2008年にOrganTechを創業。2024年に当社、会⾧に就任。 プロフィール詳細 >
私たちが普段、何気なくしている「食べる」という行動は、「歯で噛む(咀嚼)」や「飲み込む(嚥下)」などの口腔の機能によるものであり、国民健康や生活の質(QOL)の維持と向上、健康長寿社会の実現に重要な役割を果たしています。なかでも「歯」と「歯周組織」は、顎顔面の構造と連携して、咀嚼や発音、顎運動機能、口腔の知覚機能など機能的咬合系を確立して、口腔機能の発現で大きな役割を担っています(図1)。
図1 歯の顎顔面領域における連携機能(機能的咬合系)
歯は、胎児期の口腔内の上皮性幹細胞と間葉性幹細胞の相互作用によって誘導された歯胚(いわば歯のタネ)から発生します(図2)。上皮性幹細胞はエナメルをつくる細胞へと分化します。一方、間葉性幹細胞は象牙質をつくる細胞や歯の内部の結合組織成分である歯髄細胞や歯周組織へと分化します。歯周組織を構成しているのは歯根膜やセメント質、歯槽骨です。歯の本数や歯の生えかわりの回数は歯胚の数によって決定されることが知られています。ヒトの場合、歯胚は胎児期にふたつ誘導され、乳歯と永久歯へと発生しこの2回しか歯が生えることはありません。
図2 歯の発生
口腔内で歯を支えているのは歯周組織の「歯根膜」です(図3)。歯根膜は、歯と歯槽骨をつなぐコラーゲン線維の「靭帯」であり、歯根表面のセメント質と歯周組織の歯槽骨の両方にシャーピー線維を侵入させ、口腔内で歯を支えています(図3B)。この歯根膜は多彩な生理機能を有しており、食べ物を噛んだ時の「咬合力」を緩衝する機能や、知覚神経が侵入して噛んだ「感覚」や「痛み」を感じること、免疫担当細胞が侵入して「感染の防御」などの役割を担っています。なかでも加齢成長の伴う「歯の移動」は歯根膜による「骨のリモデリング」であり、歯科治療の矯正に応用されています。
図3 歯の構造
歯科の疾患として、歯のう蝕(虫歯)や外傷、歯根破折、歯周病などが知られています。公益財団法人8020推進財団の調査によると、永久歯を失う原因として最も多いのは「歯周病」で約37%、つまり、抜歯するケースの約4割が歯周病によるものとされています。さらに年齢を重ねるとその割合が高まり、高齢者では歯周病が原因で歯を失う割合がさらに増加するとの報告もあります。歯を失うことによって機能的咬合系の機能は低下し、食べることや話すこと、口腔内の知覚や衛生状態にも大きく影響を与えます。健康社会の中心にある「歯を使って食べる」こと、その歯の役割を維持するための「鍵」は歯根膜にあるといっても過言ではないでしょう。
※本記事は、2026年1月30日時点の情報に基づく研究・開発段階の内容であり、確定的な医療行為を示すものではありません。
