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第3回 オーガンテックの挑戦1:「歯を再生」する
更新日:2026年2月27日
辻 孝
辻 孝,Ph.D.取締役会長・創業者

九州大学・院・理学研究科博士。東京理科大学、教授、理化学研究所BDR、チームリーダー等を歴任。東京歯科大学客員教授。理研客員主管研究員。2008年にOrganTechを創業。2024年に当社、会長に就任。 プロフィール詳細 >
 「う蝕や外傷、歯周病で失くした自分の歯をもう一度、取り戻したい」、そう考えながら歯科治療を受けている方は多いことと思います。健康社会や高齢化社会において自分自身の歯をデンタルケアから歯の喪失を予防するほか、歯の喪失に対する治療法を充実させることは未来の歯科治療において重要な課題です。
 21世紀になって幹細胞による再生医療の技術開発が発展しました。歯の組織の部分的な再生としては、う蝕に対する歯髄の再生や歯周病に対する歯根膜の組織再生などの再生治療法が開発されています。一方、歯の喪失に対する大きな目標は「歯をまるごと再生する」ことです。歯は、ひとつの「器官(臓器)」であり、複数種の細胞が三次元的に配置してできており、歯をまるごと再生することは器官(臓器)をまるごと再生することを意味しています(図1、器官再生)。この三次元的な器官再生は数十年にわたり研究されてきましたが、どの器官(臓器)でもこの技術開発は進んでいませんでした。それゆえ歯の再生の研究は、器官(臓器)再生の技術開発のモデルケースにできると期待されています。
図1 歯の器官再生
図1  器官発生と幹細胞
 歯は、胎児期に上皮性幹細胞と間葉性幹細胞の相互作用によって誘導される「歯胚(歯のタネ)」から発生します(第1回記事器官再生)。はじめに取り組んだのは、この胎児の時期に歯をつくりだす2種類の器官誘導能のある幹細胞を生体外に取り出し、ばらばらになった細胞をどのように立体的に配置して、正常に歯に発生する細胞操作技術の開発でした。発生生物学の領域ではすでに30年以上にわたり研究されてきた未完の技術でした(器官再生)。
 私たちはこの技術開発に挑戦し、何年もの試行錯誤を繰り返しました。そして5年後の2007年に、生体内の上皮・間葉相互作用を再現するように、上皮性幹細胞と間葉性幹細胞を高密度で区画化して配置する「器官原基法」を世界に先駆けて開発しました(図2)。この技術がその後の器官再生のすべての始まりになりました。この器官原基法の開発は世界中で「歯をまるごと再生」したと大きな話題になり、歯科領域を中心に世界中から招待講演の依頼がありました。その一方で、私たちは歯胚を再生するための立体的な細胞操作方法を確立したに過ぎず、再生した歯が萌出できたわけではなかったので、あまりの大きな報道にひやひやしました。さらに世界中の研究者に、「歯が生えてくるのは、歯導帯(しどうたい)を伝って生えてくるのだ。君たちが作った再生歯胚を移植しても歯導帯がないから生えてこないよ」という意見を少なからずもらいました。私たちは再生歯胚が生えてくると信じていました。「それなら試してやろう」と新しい動物モデルを開発して新たな挑戦を始めました。
図2 器官原基法
図2  発生・再生からの器官再生の戦略と成果
 2009年には、マウス胎児の歯胚から2種類の幹細胞を取り出し、器官原基法により再生した歯胚を、歯を喪失した場所に移植をして、再生した歯が萌出して咬合をとることを示しました(図3)。再生歯は、天然の歯と同じ構造を有しており、歯根膜を介して歯槽骨に連結して対合歯と咬合をとっていました。歯根膜の機能を調べてみると、実験的な矯正によって再生歯が「骨のリモデリング」による移動能を有していました。さらに歯根膜には知覚神経が侵入しており、歯髄刺激や矯正刺激によって延髄が知覚を感じていることが判明しました。この結果に、歯科領域の研究者は驚き、以前にもまして、世界中から招待講演の依頼が来るようになりました。
図3 再生歯の機能評価
図3  再生歯の顎顔面領域における連携機能
 これらの結果から、自分自身の歯とまったく変わらない「機能的な歯の再生」ができる可能性が示されました。私たちは、この「器官原基法による器官再生」において、毛髪や唾液腺、涙腺が生体内で機能的な再生ができることを実証し、未来の器官再生医療の実現可能性に道を拓き、世界に大きなインパクトを与えました(図4)。
図4 器官再生医療への展開
図4  器官再生の戦略と成果
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※本記事は、2026年2月25日時点の情報に基づく研究・開発段階の内容であり、確定的な医療行為を示すものではありません。