九州大学・院・理学研究科博士。東京理科大学、教授、理化学研究所BDR、チームリーダー等を歴任。東京歯科大学客員教授。理研客員主管研究員。2008年にOrganTechを創業。2024年に当社、会長に就任。 プロフィール詳細 >
私たちは日常的にしている「食べる」という行動は、「食べ物を歯で噛む(咀嚼)」や「飲み込む(嚥下)」という口腔機能によるものであり、私たちの健康や生活の質(QOL)の維持や健康長寿社会の実現に重要な役割を果たしています。なかでも食べ物を「自分の歯で噛む」ことは、「食べるよろこび」に加えて、咀嚼における衝撃の緩衝や咬合時の知覚をはじめ、最近では脳血流の上昇による脳機能の上昇にもつながるとも言われています。さらに歯周病などの歯の疾患における口腔内の感染症は、単に口腔内に留まることなく、全身性の疾患につながると考えられるようになり、歯を中心とした口腔衛生が社会的にも大きな課題とされています。
そのため古くより歯の治療が行われてきました。最近の研究では、5 万 9000 年前のネアンデルタール人が石器を使って虫歯を治療したのではないか、という論文が出され、歯の治療における最古の事例ではないかと言われています。一方、歯の喪失に対する治療では、日本の戦国時代には尼僧の木製の総入れ歯があり、紀元前 5 世紀には針金で固定したブリッジが存在していることが知られています(第 2 回記事)。さらにデンタルインプラントとしては、紀元 7 世紀ごろのマヤ文明で真珠貝を利用したインプラントがあり、骨結合をしていたとの報告もあります。現代でもこれらの治療は進められていますが、歯の喪失に対して最も優れた治療はデンタルインプラントだと考えられています。
デンタルインプラントは、咬合機能回復や審美性において有効である反面、歯根膜がないために歯が有する咬合の緩衝能や感覚などの知覚、免疫担当細胞による感染防御、歯の移動能など、歯が有する生物機能を欠如しています。そこで私たちは、歯の喪失に対して、歯の生物機能を完全に回復させ、ヒトにおける自分自身の「第 3 の歯」とも言える「歯の再生」を目指してきました。
私たちの挑戦は本特集第 3 回記事に書いたように、歯の発生を完全に再現した「歯をまるごと再生」することによって第 3 の歯の再生が可能であり、機能が完全に回復するということから世界に大きな衝撃を与えました。さらに、現代の治療の次世代型として、デンタルインプラントに歯根膜を付与することにより、虫歯にならない機能的に強化された歯であり、生物学的には完全に生物機能が付与される次世代インプラントとして Bio-hybrid Tooth を開発しました。Bio-hybrid Tooth は現代のデンタルインプラント治療の延長線上にあり、より現代の現実的な治療法として開発が可能です。私たちは、第 3 の歯を得ることで、自分自身の歯で噛んで健康長寿社会を実現することを目指しています。
Bio-hybrid Tooth は、現在、単根歯であって、歯の破折や虫歯などで抜歯をすることにより自分自身の天然の歯根膜を利用する「第一世代」から臨床研究が始まっています。今後、奥歯などの複根歯の治療法の開発や、歯周病など自分自身の歯根膜を利用できない、「第二世代」型の Bio-hybrid Tooth の開発へと進めて行きます(図1)。
私たち、オーガンテックは、健康社会の中心である、「自分の歯で噛んで食べる」ことにより、健康や QOL の維持・向上、健康長寿社会の実現に向けて貢献していきたいと考えています。
*本記事は、2026年5月29日時点の情報に基づく研究・開発段階の内容であり、確定的な医療行為を示すものではありません。
