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第2回 歯を失った時の治療

 ―インプラント治療の「いま」と「課題」―
更新日:2026年2月13日
小川 美帆
小川 美帆,Ph.D.取締役CTO

東京理科大学大学院博士(理学)。大塚ホールディングス、理化学研究所を経て株式会社オーガンテック取締役CTO。再生医療・器官誘導分野の研究開発と事業化を推進。日本シェーグレン学会賞、エコノミスト未来賞2023 SDGs部門受賞。 プロフィール詳細 >
「噛める」を取り戻すために、人は治療を進化させてきた

 歯を失うと、「噛む」「食べる」といった日常の行動が難しくなります。そのため歯科医療は、長い歴史の中で失われた歯の機能を補う方法を探し続けてきました。入れ歯、ブリッジ、そしてデンタルインプラント(図1)。時代とともに治療法は進化し、「もう一度噛める状態をつくる」ことは、現在では当たり前のように可能になっています。これは、歯科医療が人々の生活を支えてきた、大きな成果のひとつです。
図1
図1  歯の喪失に対する人工的な歯科治療法
インプラントがもたらした大きな前進

 中でも、インプラント治療は歯を失ったときの治療を大きく前進させました。顎の骨に金属のインプラントを固定し、その上に人工の歯を装着するこの治療法は、
・ 周囲の健康な歯を削らず
・ しっかり噛めて
・ 見た目も自然
という点で、多くの人の生活の質を向上させてきました。
 「歯を失っても、以前と同じように食事ができる」
その実感を多くの人にもたらしたという意味で、インプラントは歯科治療における画期的な選択肢となっています。
それでも残る、「天然の歯」との違い

 一方でインプラントは、天然の歯とまったく同じ構造ではありません(図2)。第1回で紹介したように、私たちの歯は「歯根膜」という組織によって骨とつながっています。この歯根膜は、
・ 噛む力をやわらかく受け止め
・ 噛み心地や違和感を感じ取り
・ 歯や骨を守り
・ 年齢とともに起こるわずかな歯の移動にも対応する
といった、多くの役割を担っています。しかし、現在のインプラントは人工歯根が骨と直接結合する構造のため、この歯根膜を持っていません。そのため、「噛める」状態は取り戻せても、歯が本来持っていた生理的な働きのすべてを回復できているわけではない、という点が、課題として残っています。
図2
図2  天然歯とインプラントにおける歯根膜
「補う治療」から、その先へ

  現代の歯科医療は、歯を失っても噛める状態をつくるところまで進化しました。では次に目指すべきは、何でしょうか。
 噛む力だけでなく、感じる力や守る仕組みも含めて、天然の歯が持っていた働きを、もう一度取り戻すことはできないのか。
 その問いに対して、「歯そのものを再生する」という新しい発想が生まれています。

  次回・第3回では、オーガンテックが取り組んできた「歯を再生する」という挑戦について、その考え方と可能性をご紹介します。
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※本記事は、2026年2月13日時点の情報に基づく研究・開発段階の内容であり、確定的な医療行為を示すものではありません。