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第1回 健康社会の中心にある「歯」

 ―鍵は歯根膜にあった―
更新日:2026年1月30日
辻 孝
小川 美帆,Ph.D.取締役CTO

東京理科大学大学院博士(理学)。大塚ホールディングス、理化学研究所を経て株式会社オーガンテック取締役CTO。再生医療・器官誘導分野の研究開発と事業化を推進。日本シェーグレン学会賞、エコノミスト未来賞2023 SDGs部門受賞。 プロフィール詳細 >
私たちの健康は「歯を使って食べる」ことから始まる

 私たちが毎日行っている「食べる」という行為は、単に栄養を摂るためだけのものではありません。 食べ物を噛み、飲み込み、会話をし、表情をつくる—— これらはすべて、歯とその周囲の組織が連携して働くことで成り立っています。歯は、顎の骨や筋肉、神経と一体となって「噛む・感じる・支える」という役割(図1)を果たし、私たちの生活の質(QOL)や健康長寿を根底から支えています。つまり、健康な社会の中心には「歯を使って食べること」があると言っても過言ではありません。
図1
図1  歯の役割
歯の本当の役割を支えている「歯根膜」という存在

 歯は、骨に直接くっついているように見えますが、実際には歯と骨のあいだに「歯根膜(しこんまく)」という組織が存在しています(図2)。歯根膜は、歯を支える"靭帯(じんたい)"のような役割を持ち、次のような重要な働きを担っています。
・ 噛んだときの力をやわらかく受け止める
・ 噛み心地や違和感、痛みなどの感覚を脳に伝える
・ 細菌などから歯やからだを守る
この歯根膜があることで、私たちは無意識のうちに噛む力を調整し、歯や顎に過度な負担をかけずに食事をすることができます。歯の「機能」を支えている本当の主役は、歯そのものではなく、歯根膜を含む歯周組織なのです。
図2
図2  歯を支える歯根膜
歯を失うということは、何を失っているのか

 人の歯は、乳歯と永久歯の 2 回しか生え変わりません。一度永久歯を失ってしまうと、自然に元に戻ることはありません。もし歯を失うと、
・ 噛む力が低下する
・ 食事がしづらくなる
・ 口の中の感覚が変わる
といった変化が起こります。それは単に「歯がなくなる」という問題ではなく、歯根膜をはじめとする“歯を支える仕組み”を同時に失うことでもあります。

 では、歯を失ったとき、私たちはその機能をどこまで取り戻せているのでしょうか。現在、歯を失った際の代表的な治療法としてインプラント治療があります。 見た目や噛む力を回復できる一方で、天然の歯とは構造的に異なる点もあります。
「いまのインプラント治療は、歯の機能をどこまで再現できているのか」
「そこには、どのような課題があるのか」
 次回・第 2 回では、インプラント治療の現状と課題について、整理していきます。
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※本記事は、2026年1月30日時点の情報に基づく研究・開発段階の内容であり、確定的な医療行為を示すものではありません。