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第7回 Bio-hybrid Tooth ーヒトに向けた開発と臨床研究ー
更新日:2026年5月15日
辻 孝
辻 孝,Ph.D.取締役会長・創業者

九州大学・院・理学研究科博士。東京理科大学、教授、理化学研究所BDR、チームリーダー等を歴任。東京歯科大学客員教授。理研客員主管研究員。2008年にOrganTechを創業。2024年に当社、会長に就任。 プロフィール詳細 >

 歯は、食事や発音などヒトの生活に密接に関係しており、歯の喪失や機能不全は生活の質(QOL)に関わる重要な課題です。特に高齢化先進国である日本は、健康長寿社会の実現に向けて歯科治療の重要性はますます高まっています。

 歯科治療では、歯の喪失に対して、入れ歯やブリッジ、インプラントなど、主として咀嚼や咬合、審美性において機能を回復させ、QOL の向上に大きな役割を果たしてきました。

 歯の喪失に対する歯科治療の大きな目標は、乳歯、永久歯に続く「第三の歯」、すなわち咀嚼や咬合、審美性だけではなく、歯の有する生物機能を有して自分自身の歯を再生することです。私たちは、その一つの取り組みとして、歯根膜を付与するバイオハイブリッドトゥースを開発してきました。

 マウスでの概念実証に加え、大型動物であるイヌを用いて組織学的な解析や動揺度、全身性検査から非臨床における有効性と安全性について十分に実証しました(本特集第 6 回記事)。そしてイヌを用いた非臨床試験と並行してヒトでの臨床研究に向けて研究開発を進めました。

 マウスやイヌなどの研究用モデル動物の場合は、動物の大きさや歯の位置などを固定して研究を行うので、個体や歯の大きさなどに大きな違いはありません。しかしヒトの場合は、からだの大きさや治療したい歯の大きさや形、歯並び、治療の経歴など、様々な個人差があります。これを克服して治療をする必要があるのです。

 ハイブリッドトゥースは、抜歯窩の中にいれます。抜歯窩は歯の位置や個人によって大きさが違うため、大きさや太さが異なる 16 種類のラインナップをインプラントメーカーの協力を得て揃えました。さらにバイオハイブリッドトゥースには適切な咬合刺激が加わり、歯根膜の生着や成熟が起こらなければなりません。そのため、ヒト用に低侵襲でかつ隣在歯から咬合刺激が加わるように植立デバイスの開発を行いました。この植立デバイスは、治療を受ける患者様の歯の位置や過去の治療による隣在歯の状況に合わせてオーダーメイドで製作することになります。

 もう一つ重要なのは、抜歯窩の中で、バイオハイブリッドトゥースが歯槽骨壁(歯根膜が付着している)にダメージを与えないように適切な深さや長さ、太さを選択して植立デバイスに固定し、適度な咬合圧がかかるように調節する必要があります。歯根の形状や太さの抽出は歯科技工所の協力を得てシミュレーションした上で、さらに植立デバイスを製造しました。

 これでようやくヒトでの試験をする準備が整いました。歯根膜結合型インプラント(製品名:バイオハイブリッドトゥース)の研究に着手してすでに 16 年の時間が経過していました。

 2025 年 1 月 29 日、世界初の「歯の喪失に対する器官再生」として歯根膜結合型インプラントの安全性と有効性の検証のための特定臨床研究を開始する発表をしました(プレスリリース参照)。開発企業は株式会社オーガンテック、医療機関の実施施設は一般財団法人脳神経疾患研究所附属総合南東北病院附属南東北医療クリニック歯科顎顔面インプラントセンターとなりました。責任医師である春日井昇平センター長は、東京医科歯科大学病院インプラント科教授(当時、現、東京科学大学)のころから辻が歯に関する研究を進めていくうえで重要なパートナーであり、この歯根膜結合型インプラントの臨床研究の責任医師には最もふさわしい人材でした。加えて東京理科大学、理研の時代から研究を共に進めてきた徳島大学大学院医歯薬学研究部准教授の大島正充先生にも加わっていただき、特定臨床研究を開始することになりました。

 研究概要は以下のように開始されました。

図1
図1  特定臨床研究概要

 最初の 3 回の通院で、患者様がこの治療に適しているかを判断すると共に、抜歯対象の歯に最適なインプラントを選択してインプラントと隣在歯を固定するデバイスを作製します。4 回目の通院で対象となる歯を抜歯すると同時にインプラントとデバイスを設置します。移植後 18 週までの間、経過の観察とインプラントの生着、並びに歯根膜の形成を確認していきます。18 週から 36 週の間にデバイスを除去し、移植後 48 週で治療は終了します。特定臨床研究は、2025 年 2 月 1 日から開始になりました。

 2026 年 3 月 16 日に医療機関から本特定臨床研究に関する経過報告が公表されました(プレスリリース)。特定臨床研究は、2025 年 10 月に患者登録が終了となり、4 例の患者様に歯根膜結合型インプラントの埋植が実施されました。3 月 16 日の時点で、3 名の患者様は術後 24 週目の生着評価が完了し、残りの 1 名の方の生着評価が終了しておりました。すべての症例が天然歯に近似した検査値であり、この時点で顎骨への生着が報告されました。さらに観察期間中に腫れや出血などの炎症事例、歯肉レベルの低下などの有害事象、痛みの評価も認められないことが報告されました。これらのことから、歯根膜付与インプラントは、特定臨床研究で規定された評価項目において低侵襲性で安全なインプラント治療になりうることが期待されました。今後 44-48 週目において最終の評価と安全性の評価項目を確認して、特定臨床研究は終了することになっています。

 これまでのヒトでの試験の途中経過はバイオハイブリッドトゥースの有効性を期待させるものですが、まだまだ始まったばかりです。患者様の歯の状態や生活習慣などは多種多様であり、ほとんどすべての人がこの治療の有効性を享受できるように、私たちは謙虚に、そして迅速に研究開発を進めていく必要があります。私たちは、歯科の先生方と未来の歯科治療を発展させていきたいと心から願っています。

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*本記事は、2026年5月15日時点の情報に基づく研究・開発段階の内容であり、確定的な医療行為を示すものではありません。