九州大学・院・理学研究科博士。東京理科大学、教授、理化学研究所BDR、チームリーダー等を歴任。東京歯科大学客員教授。理研客員主管研究員。2008年にOrganTechを創業。2024年に当社、会長に就任。 プロフィール詳細 >
歯の生理機能における歯根膜の重要性はよく知られており、口腔インプラントに歯根膜組織を形成させる研究は以前より進められてきました。インプラント体の表面に歯根膜形成を誘導する物質をコーティングしたり、歯根膜形成能を有する細胞を配置して歯根膜を形成することが試みられてきましたが、完全な歯周組織の形成を実現した研究はこれまでに報告されていませんでした。
私たちは発生生物学や再生医学の観点からインプラント体に歯根膜を付与する「次世代バイオハイブリッドインプラント」の基礎研究をマウスモデルで、2009 年から始めました。歯は胎児期に誘導される歯胚(しはい、歯のもとになる、いわばタネ)から発生します(第1回記事、HP 器官発生)。この歯胚の周囲には、将来、歯周組織(セメント質、歯根膜、歯槽骨)に分化する歯小嚢(ししょうのう)組織が存在します(図 1)。歯根膜を含む歯周組織をインプラント体に形成させるために、まずこの歯小嚢組織を用いました。一方、インプラント体はチタン金属で細胞が接着しないため、チタン表面に細胞から骨への分化を誘導することが報告されているハイドロキシアパタイト(HA)を薄膜コーティングしました。この HA インプラント体に歯小嚢組織を巻き付けて抜歯窩へ移植して、歯根膜ができるかどうかを解析しました。
HA インプラントだけを移植すると、従来の骨結合が認められました。一方、HA インプラントに歯小嚢を巻き付けて移植をすると、インプラント表層から順に、セメント質、歯根膜、歯槽骨が規則正しく配置された歯周組織ができることがわかりました。さらに電子顕微鏡で拡大して組織を解析すると、インプラント表層には層板状のセメント質が形成され、歯根膜シャーピー線維の侵入も認められました(図 2)。これらのことから HA インプラントに歯小嚢を付与して移植することによって、天然の歯と同等の歯根膜を含む歯周組織を介して生着することが判明しました。
この歯根膜が付与されたインプラントが、はたして歯根膜の生理機能を有するのかを次に調べていきました。まず機械的な外力による歯の移動能を解析しました。一般に骨結合型インプラントは機械的な外力、矯正刺激を与えても全く移動することはありません。それに対し、歯根膜を付与したインプラントは、天然歯と同様に実験的な矯正力に応答して、経時的なインプラントの移動が認められました(図 3)。この反応は、矯正力の圧迫側には破骨細胞が、牽引側には骨芽細胞が局在する骨のリモデリングに伴う生理的な移動だということも判明しており、歯根膜の生理機能を有していることが示されました。
歯は機能的咬合系による生理機能のひとつとして、顎顔面領域の末梢神経と中枢神経によってネットワークを構築して、噛んだ感覚や外部からの侵害刺激を知覚や痛みとして感知して生体防御に関わっています(第1回記事)。現在の骨結合型インプラントは、歯根膜が存在しないため噛む力をコントロールできず、過剰な咬合刺激によって傷害を受けることも少なくないと言われています。一方、歯根膜を付与したインプラントでは、再生した歯根膜の内部に末梢神経が存在していました(図 4)。その上、この末梢神経に実験的な矯正を与えると延髄にその刺激が伝達されたことから、歯根膜付与インプラントは中枢と連結した神経機能を有しており、噛んだ感覚や知覚が回復することが判明しました。
これらのマウスを用いた基礎的な研究結果から、胎児由来の歯小嚢組織をインプラント体周囲に配置をして歯の喪失部位に移植することによって、歯根膜を付与したインプラントができることを実証しました。この技術は、口腔インプラント治療の課題である歯根膜の機能を再生させることによって、天然の歯と同等の生理機能を回復させる次世代の機能性インプラントであるバイオハイブリッドインプラントとして、機能的咬合系(第1回記事)を回復させることが可能であると考えられます。
しかしこの段階では未だ胎児由来の組織を用いて実証をしているため、さらにヒトでの実用化に向けて成体のからだの中にある環境や細胞を用いた技術の確立が必要です。私たちは、大型動物を用いて、ヒトでの実用化に向けた治療法になる技術の開発に向け、再びスタートを切りました。
*本記事は、2026年3月27日時点の情報に基づく研究・開発段階の内容であり、確定的な医療行為を示すものではありません。
