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第6回 Bio-hybrid Tooth ー天然歯の機能をもつインプラントー
更新日:2026年4月10日
小川 美帆
小川 美帆,Ph.D.取締役CTO

東京理科大学大学院博士(理学)。大塚ホールディングス、理化学研究所を経て株式会社オーガンテック取締役CTO。再生医療・器官誘導分野の研究開発と事業化を推進。日本シェーグレン学会賞、エコノミスト未来賞2023 SDGs部門受賞。 プロフィール詳細 >
 第5回では、胎児期に存在する歯小嚢(ししょうのう)組織を用いることで、インプラントの周囲に
・セメント質(しつ)
・歯根膜(しこんまく)
・歯槽骨(しそうこつ)
からなる、天然歯と同じ構造を再現できることを紹介しました。

 つまり、歯根膜を介して骨とつながるインプラントは、科学的に実現可能であることが示されたのです。

 一方で、この方法には大きな課題がありました。
それは、胎児由来の組織を使っているという点です。

 実際の医療では、
・誰でも使えること
・安全に提供できること
が求められます。

 しかし、胎児期にしか存在しない歯小嚢組織をそのまま治療に使うことは現実的ではありません。
ここで、再び問いが生まれます。

「体の中にあるものだけで、同じことはできないのか」
抜歯した場所に残る「歯根膜」を使う
 歯を抜いたとき、歯根膜組織は完全に消えるわけではありません。
実際には、抜歯した窩(あな)の中に大部分が残っているのです。
そしてその中には、歯根膜を再生する力を持つ細胞(歯根膜幹細胞)が存在すると考えられます。

 そこでオーガンテックは、この「抜歯した窩に残る歯根膜」を利用する方法に着目しました。
「体に任せる」という新しいアプローチ
 発想は非常にシンプルでした。
抜歯した場所に、歯根膜と結合できるインプラントを入れ、周囲の歯と同じように力がかかる環境をつくる。
そうすれば、歯根膜はそれを自然な状態として認識し、自ら再構築するのではないかという考え方です。

 これは、
・細胞を人工的に操作するのではなく
・体の自然治癒力を利用する
という、生物学的な発想に基づいています。
ヒトに近い条件での検証 — イヌでの試験
 この発想を実際のヒトでの治療に近づけるため、より条件の近い大型動物であるイヌで検証を行いました。
ヒトと近いサイズの歯を対象に検証を行ったところ、インプラントが「天然の歯のように」歯根膜組織を介して結合することが確認されました。
図1
図1  イヌに移植したバイオハイブリッドトゥース
 組織を詳しく調べると、
・インプラント表面にはセメント質が形成され
・歯根膜の線維(シャーピー線維)が入り込み
天然歯と同じような歯根膜構造が形成されていました。
図2
図3
図2  イヌに移植したバイオハイブリッドトゥースの組織像
図3  イヌに移植したバイオハイブリッドトゥースの電子顕微鏡像
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*本記事は、2026年4月10日時点の情報に基づく研究・開発段階の内容であり、確定的な医療行為を示すものではありません。