第5回
オーガンテックの挑戦2-2:インプラントと歯根膜を介した生体との融合
更新日:2026年3月27日
小川 美帆,Ph.D.取締役CTO
東京理科大学大学院博士(理学)。大塚ホールディングス、理化学研究所を経て株式会社オーガンテック取締役CTO。再生医療・器官誘導分野の研究開発と事業化を推進。日本シェーグレン学会賞、エコノミスト未来賞2023 SDGs部門受賞。 プロフィール詳細 >
東京理科大学大学院博士(理学)。大塚ホールディングス、理化学研究所を経て株式会社オーガンテック取締役CTO。再生医療・器官誘導分野の研究開発と事業化を推進。日本シェーグレン学会賞、エコノミスト未来賞2023 SDGs部門受賞。 プロフィール詳細 >
歯根膜をインプラントに再現できるのか
これまでのインプラント治療は、インプラントが顎の骨と直接結合することで固定されます。
この「骨結合」はインプラント治療を大きく進歩させましたが、天然歯に存在する歯根膜(しこんまく)はそこにはありません。
これまでにも、様々な方法で歯根膜を形成させようと研究が行われてきましたが、天然歯と同じ構造をもつ歯周組織(ししゅうそしき)(セメント質(しつ)・歯根膜・歯槽骨(しそうこつ))を再現することはできていませんでした。
そこでオーガンテックは、発生生物学と再生医学の視点から、天然歯と同じように歯根膜を介して骨と結合するインプラントをつくる研究を2009年から開始しました。
この「骨結合」はインプラント治療を大きく進歩させましたが、天然歯に存在する歯根膜(しこんまく)はそこにはありません。
これまでにも、様々な方法で歯根膜を形成させようと研究が行われてきましたが、天然歯と同じ構造をもつ歯周組織(ししゅうそしき)(セメント質(しつ)・歯根膜・歯槽骨(しそうこつ))を再現することはできていませんでした。
そこでオーガンテックは、発生生物学と再生医学の視点から、天然歯と同じように歯根膜を介して骨と結合するインプラントをつくる研究を2009年から開始しました。
歯を支える組織のもと「歯小嚢」に着目する
歯は胎児期に形成される「歯胚(しはい)」から発生します。
その歯胚の周囲には、将来、セメント質や歯根膜、歯槽骨へと分化する、歯小嚢(ししょうのう)という組織が存在します。
言い換えれば、歯小嚢は、歯を支える組織のもとになる細胞の集まりです。
そこで私たちは、この歯小嚢組織を利用して、インプラントの周囲に歯根膜を形成できないかと考えました。
その歯胚の周囲には、将来、セメント質や歯根膜、歯槽骨へと分化する、歯小嚢(ししょうのう)という組織が存在します。
言い換えれば、歯小嚢は、歯を支える組織のもとになる細胞の集まりです。
そこで私たちは、この歯小嚢組織を利用して、インプラントの周囲に歯根膜を形成できないかと考えました。
図1 鐘状期の歯胚および歯小嚢組織
一方、インプラント体にはチタン金属を用いますが、そのままでは細胞が付きにくいという性質があります。
そこでチタン表面に、ハイドロキシアパタイト(HA)という骨に親和性の高い材料を薄くコーティングしました。
このHAコーティングされたインプラントに歯小嚢組織を巻き付け、歯を抜いた場所に移植して、歯根膜が形成されるかどうかを調べました。
そこでチタン表面に、ハイドロキシアパタイト(HA)という骨に親和性の高い材料を薄くコーティングしました。
このHAコーティングされたインプラントに歯小嚢組織を巻き付け、歯を抜いた場所に移植して、歯根膜が形成されるかどうかを調べました。
インプラントの周囲に歯周組織が形成された
実験の結果は、非常に興味深いものでした。
HAインプラントだけを移植した場合には、従来のインプラントと同じように骨と直接結合する骨結合が起こりました。
しかし、歯小嚢組織を付与したインプラントでは、インプラントの表面から順に
・セメント質
・歯根膜
・歯槽骨
という、天然歯と同じ構造をもつ歯周組織が形成されていました。
さらに電子顕微鏡で詳しく観察すると、
・インプラント表面にはセメント質が形成され
・歯根膜のコラーゲン線維(シャーピー線維)が侵入している
ことが確認されました。
つまり、インプラントが歯根膜を介して骨と連結している構造がつくられていたのです。
HAインプラントだけを移植した場合には、従来のインプラントと同じように骨と直接結合する骨結合が起こりました。
しかし、歯小嚢組織を付与したインプラントでは、インプラントの表面から順に
・セメント質
・歯根膜
・歯槽骨
という、天然歯と同じ構造をもつ歯周組織が形成されていました。
さらに電子顕微鏡で詳しく観察すると、
・インプラント表面にはセメント質が形成され
・歯根膜のコラーゲン線維(シャーピー線維)が侵入している
ことが確認されました。
つまり、インプラントが歯根膜を介して骨と連結している構造がつくられていたのです。
図2 HA インプラントにおける組織生着の評価(HE 染色、SEM/TEM 解析)
歯根膜の機能も回復するのか
次に、この歯根膜付きインプラントが本当に歯根膜の働きを持つのかを調べました。
天然歯では、矯正(きょうせい)治療のような力を加えると、歯根膜の働きによって骨が作り替えられ、歯がゆっくりと移動します。
一方、骨結合型インプラントは骨と直接結合しているため、外から力を加えてもまったく動きません。
しかし、歯根膜を付与したインプラントでは、天然歯と同じように矯正力に応じて移動することが確認されました。
これは歯根膜が機能し、骨のリモデリング(骨の作り替え)が起こっていることを示しています。
天然歯では、矯正(きょうせい)治療のような力を加えると、歯根膜の働きによって骨が作り替えられ、歯がゆっくりと移動します。
一方、骨結合型インプラントは骨と直接結合しているため、外から力を加えてもまったく動きません。
しかし、歯根膜を付与したインプラントでは、天然歯と同じように矯正力に応じて移動することが確認されました。
これは歯根膜が機能し、骨のリモデリング(骨の作り替え)が起こっていることを示しています。
図3 歯科矯正により移動
噛んだ感覚を感じる神経も回復する
さらに、歯の重要な機能のひとつである「噛んだ感覚」についても調べました。
天然歯では、歯根膜の中に存在する神経が噛む力や刺激を感知し、その情報が脳へ伝えられます。
しかし骨結合型インプラントには歯根膜がないため、噛む力を細かく調整することが難しいといわれています。
歯根膜を付与したインプラントを調べたところ、再生した歯根膜の中に末梢神経(まっしょうしんけい)が入り込んでいることが確認されました。
さらにその神経に刺激を与えると、その情報が脳の延髄(えんずい)へ伝わることも確認されました。
つまりこのインプラントは、噛んだ感覚を感じる神経機能も回復している可能性が示されたのです。
天然歯では、歯根膜の中に存在する神経が噛む力や刺激を感知し、その情報が脳へ伝えられます。
しかし骨結合型インプラントには歯根膜がないため、噛む力を細かく調整することが難しいといわれています。
歯根膜を付与したインプラントを調べたところ、再生した歯根膜の中に末梢神経(まっしょうしんけい)が入り込んでいることが確認されました。
さらにその神経に刺激を与えると、その情報が脳の延髄(えんずい)へ伝わることも確認されました。
つまりこのインプラントは、噛んだ感覚を感じる神経機能も回復している可能性が示されたのです。
図4 再生歯根膜内末梢神経線維の分布(蛍光免疫染色)
次世代インプラントの可能性
これらの研究結果から、歯根膜を介して骨と結合するインプラントを実現できる可能性が示されました。
この技術は、現在のインプラント治療が抱える課題である
・噛む力の調整
・歯の生理的な働き
を回復させる可能性を持つ、次世代の機能性インプラントと考えられます。
ただし、この段階では胎児由来の歯小嚢組織を用いた研究です。
実際の医療として利用するためには、患者自身の体の中にある細胞や環境を利用した新しい技術の開発が必要になります。
次回、第6回では、ヒトでの実用化に向けた大型動物モデルでの研究について、紹介したいと思います。
この技術は、現在のインプラント治療が抱える課題である
・噛む力の調整
・歯の生理的な働き
を回復させる可能性を持つ、次世代の機能性インプラントと考えられます。
ただし、この段階では胎児由来の歯小嚢組織を用いた研究です。
実際の医療として利用するためには、患者自身の体の中にある細胞や環境を利用した新しい技術の開発が必要になります。
次回、第6回では、ヒトでの実用化に向けた大型動物モデルでの研究について、紹介したいと思います。
*本記事は、2026年3月27日時点の情報に基づく研究・開発段階の内容であり、確定的な医療行為を示すものではありません。
