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第3回 オーガンテックの挑戦1:—生体内で機能的な歯を再生する—
更新日:2026年2月27日
小川 美帆
小川 美帆,Ph.D.取締役CTO

東京理科大学大学院博士(理学)。大塚ホールディングス、理化学研究所を経て株式会社オーガンテック取締役CTO。再生医療・器官誘導分野の研究開発と事業化を推進。日本シェーグレン学会賞、エコノミスト未来賞2023 SDGs部門受賞。 プロフィール詳細 >
歯は「偶然」ではなく、決められた仕組みでつくられている
 歯は、生まれてから自然に生えてくるように見えますが、その準備は胎児期にすでに始まっています。胎児の口の中では、性質の異なる2種類の細胞(上皮性幹細胞と間葉性幹細胞)が互いに影響し合うことで、歯胚(しはい)と呼ばれる「歯のたね」がつくられます。歯胚が成長するにつれて、上皮性幹細胞はエナメルをつくる細胞へと分化します。一方、間葉性幹細胞は象牙質や歯髄、さらに歯根膜やセメント質、歯槽骨など歯を支える歯周組織へと分化していきます。これらは、すべて歯胚の中で秩序立って細胞の増殖、移動、分化が起こることによって、歯が形成されていきます(図1)。
 歯の本数や、乳歯と永久歯の2回しか歯が生えないことも、この歯胚の数によってあらかじめ決まっています。つまり歯は、生体が自ら設計し、組み上げる器官なのです。
図1
図1  歯の発生
「歯のたね」を人工的につくるという挑戦
 では、この歯胚——
いわば「歯のたね」を、人為的につくることはできるのでしょうか。
 オーガンテックが最初に取り組んだのは、歯の発生に必要な2種類の細胞を生体外に取り出し、もう一度、歯が生まれる環境を再現することでした。細胞をただ集めるだけでは、歯にはなりません。
 重要なのは、
・ どの細胞を
・ どの位置に
・ どれくらいの密度で
立体的に配置するか、という点です。
 この課題は、発生生物学の分野で30年以上にわたって研究されながらも、実現されていなかった難問でした。オーガンテックは試行錯誤の末、2007年に、細胞を立体的に配置する方法を確立しました。これが、「器官原基法」と呼ばれる技術です(図2)。
 この方法により、歯だけでなく、さまざまな器官再生への道が開かれました。
図2
図2  発生・再生からの器官再生の戦略と成果
「噛める・感じる」歯の再生が示した可能性
 この技術が、単なる構造の再現にとどまらないことが示されたのが2009年です。
 再生した歯胚を、歯を失った場所に移植したところ、歯は自然に萌出し、対合する歯と正しく噛み合うことが確認されました。
 さらに重要なのは、再生した歯が、
・ 歯根膜を介して骨とつながり
・ 噛む力を調整し
・ 矯正刺激によって移動し
・ 感覚神経が入り、刺激を感じ取る
という、天然の歯と同じ機能を示した点です(図3)。
 これらの結果は、「歯の形を再現した」のではなく、「歯という器官を、機能ごと再生できる可能性」を示すものでした。
図3
図3  再生歯の顎顔面領域における連携機能
 私たちは、この「器官原基法による器官再生」において、毛髪や唾液腺、涙腺が生体内で機能的な再生ができることを実証し、未来の器官再生医療の実現可能性に道を拓き、世界に大きなインパクトを与えました(図4)。
再生した歯を、治療として使うために
 マウスで歯が再生できたことは、非常に画期的で重要な成果でした。
 しかし同時に、「歯のたね」をそのまま人の治療に応用することは、現実的に難しいという課題も明らかになりました。歯のたねは、胎児期に形成される特別な構造であり、実際の医療として利用するためには、新しい発想が必要だったのです。

 次回・第4回では、この課題に対する答えとして生まれた「生体」と「人工材料」を組み合わせるハイブリッドという考え方について、詳しくご紹介します。
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※本記事は、2026年2月27日時点の情報に基づく研究・開発段階の内容であり、確定的な医療行為を示すものではありません。