再生毛包器官原基によって再生した毛包は、周囲の組織と機能的に連携し、毛流の再現や神経の侵入による知覚の回復が認められました。また生後のプログラムされた毛包再生である毛周期を繰り返し、移植されたマウスが生きている限り、毛周期を繰り返しました。このことから、再生毛包器官原基を利用した毛包再生は、生涯に一度の治療でよい可能性が示されました。

■ 器官原基法による歯の再生
「器官原基法」の発明により、生体内での機能的な器官再生の研究が可能になりました。
私たちは、2009年に、胎児歯胚(いわば歯のタネ)より採取した上皮性幹細胞と間葉性幹細胞を用いて、 「器官原基法」により再生した歯胚を歯を失った場所に移植して、同所的に機能的な歯の再生ができることを実証しました。この再生歯は、天然歯の構造を有するほか、歯根膜による歯の移動能や知覚を回復し、歯の器官再生医療への社会的期待が大きく高まりました。
しかしながら生後、歯を再生するための幹細胞が見つかっていないこと、ヒトでは歯が生えるまでに永久歯では数年かかることから、私たちは現在の治療法を改良し、近未来的な歯の再生を目指すことにしました。

■ 器官原基法による毛包の再生
毛髪は社会的シンボルとも位置付けられており、脱毛症は人々の生活の質(QOL)に大きな影響を与えることから、長らく脱毛症の解明に向けた研究や、様々な治療法が研究されてきました。21世紀になると、生体内の幹細胞研究が大きく発展し、毛包においても幹細胞の研究が進められてきました。
毛包は、毛周期を有することから、成体内で唯一、器官誘導能を有する幹細胞が存在する器官であることが知られています。そのため、次世代再生医療の先駆けとして毛包器官再生医療の実現が期待されています。
私たちは、2012年に、毛包より採取した上皮性幹細胞と間葉性幹細胞である毛乳頭細胞を用いて、 「器官原基法」により再生した再生毛包器官原基を有毛部皮膚に移植して、同所的に機能的な毛包の再生ができることを実証しました。

■ 事業ステージへ
私たちは、歯や毛髪だけではなく唾液腺・涙腺など、幅広い種類の再生器官原基からの機能的な器官再生が可能であることを世界に先駆けて実証し、世界的に大きな関心を集めてきました。これらの器官再生の中から、まず事業化に向けて実現可能性が早期である、「歯」や「毛髪」の再生を選択して研究開発を進めています。
一方、毛包は皮膚に存在するため、皮膚の研究も進め、生体の環境を再現した「三次元人工皮膚」を開発しました。皮膚は医薬品やヘルスケア分野でのターゲットになる組織であり、内部には毛包や皮脂腺、汗腺を含む複雑な皮膚器官系です。研究開発支援や重症熱傷などの皮膚疾患に向けて高度化を進めていきます。
